むかし、いつの頃でありましたか、竹取りの翁といふ人がありました。
ほんとうの名は讃岐の造麻呂といふのでしたが、毎日のように野山の竹藪にはひつて、竹を切り取つて、いろいろの物を造り、それを商ふことにしてゐましたので、俗に竹取りの翁といふ名で通つてゐました。
ある日、いつものように竹藪に入り込んで見ますと、一本妙に光る竹の幹がありました。
不思議に思つて近寄つて、そっと切つて見ると、その切つた筒の中に高さ三寸ばかりの美しい女の子がゐました。
いつも見慣れてゐる藪の竹の中にゐる人ですから、きっと、天が我が子として與へてくれたものであらうと考へて、その子を手の上に載せて持ち歸り、妻のお婆さんに渡して、よく育てるようにいひつけました。
お婆さんもこの子の大そう美しいのを喜んで、籠の中に入れて大切に育てました。